Amphisbaena

 ニルガーニアの伝説にある双頭の蛇こそアンフィスバエンドだと言われている。第十三王朝時代に地下都市迷宮に出現したものが、その生き残りなのか、あるいはガルシスが創り出したものなのかは定かではないが、いわゆる獣の類であって魔法生物ではないことは確かだ。外観は蛇なのに、体を丸めてタイヤのように転げまわる、よくわからない移動の仕方をする。おまけに地面を移動する際にはやたらやかましく音を立てるので、よくあれで獲物に逃げられないものだと、関心さえしてしまう。

 特徴はやはりその見た目であり、裂けた胴体の先にある二つの頭である。それぞれに純然たる脳を持ち、それぞれ異なる思考を持つ。一頭一身に対する奇形というわけではないので、両方の脳が全身の運動組織をコントロールすることができるし、一方の頭を失ったとしても、全く動けなくなるわけでもない。これは一方の頭を仕留めたからと言って油断は禁物ということでもある。とはいえ、その段階においてはもはや本能で襲い掛かってくるに過ぎないので、危険性は大幅に低下しているはずだ。幾ら同じ体組織を持っていたところで、それを片方でも失えば瀕死の大怪我であることには変わりない。

 だがそもそもアンフィスバエンドは、卓越したコンビネーションで攻撃を仕掛けてくることの方が、よっぽど脅威であり、留意すべき最重要点だ。身体を共有するということは、常に異なる意思の介入を受けながら行動しているということに他ならない。これほど厄介なことはない。だがそれが日常なのだからこそ、互いの思考を察して行動するそのコンビネーションは、他には真似のできないチームワークとなる。優れたチームに独りで立ち向かうことが、通常ならば如何に愚かな行為であるか、彼らに出逢えるほどに腕の立つ戦士ならば語る必要もなかろう。

 ところで、アンフィスバエンドの身体は緊急時の食料となる。けして美味いものではないが、迷宮奥深くともなれば、食料の現地調達は重要な要件になりうるのだから、覚えておいて損はない。但し、その体内には毒を持つ部位があることを忘れてはいけない。毒そのものが致命的でなくとも、そこは既に危険に満ちた場所なのだから。

 余談だが、噂では三つ首のアンフィスバエンドが存在するらしいが、噂は噂話の域を出たことがなく、そのまま時代が過ぎている。確証の得られた話ではない。

 

—解説————

 ローマの大プリニウスの著書『博物誌』に記されるAmphisbaena(アンフィスバエナ)が元となっていると推測される。ギリシア語で「両方」を意味する「アンフィス」と「行く」を意味する「バイネイン」に由来した「両方向に進める」という意味の名前。微妙に名前が違っているのは、おそらくは最後のアルファベットの小文字の「a」を「d」と見間違えたか、参考文献の誤植をそのまま流用してしまったかのいずれかだろう。

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